2015.05.15
会社法改正⑧ 【多重代表訴訟制度の新設】 多重代表訴訟制度が新設され,限定的な形で親会社の株主が直接子会社の取締役等の責任を追及することが可能となりました。訴え提起の条件としては,①最終完全親会社等の株主が,1%以上の株式を6か月継続して保有しており(原告側の条件),②子会社の株式の帳簿価額が最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超えていること(被告側の条件)が重要です。
改正前会社法では,子会社の取締役等に任務懈怠があった場合でも,親会社の株主が子会社の取締役等に対して直接責任を追及する訴えを提起することは認められていませんでした。一方,親会社は子会社の株主として取締役等の責任を追及する訴えを提起することが可能ですが,人的関係等から訴えを提起しないおそれがあります。また,持株会社が増加したこともあり,親会社株主による責任追及制度の必要性が高まっていました。
そこで,改正会社法では多重代表訴訟制度が新設されることとなりました。改正会社法は,多重代表訴訟について,通常の株主代表訴訟とは異なる規律を設けており,今回はその中でも重要な2点についてご紹介します。
① 原告側の条件
まず,訴えを提起できるのは「最終完全親会社等」(簡単にいうと,子会社の株式全部を直接的又は完全子会社等を介して間接的に保有している最上位の株式会社のことです。)の株主に限られます。さらに,最終完全親会社等の株主は,最終完全親会社等の総株主の議決権又は発行済株式の100分の1以上を,6か月前から引き続き(公開会社の場合のみ)有していることが必要です(改正法847条の3第1項から第3項)。
図)最終完全親会社の例
100% 100%
(株主E) → A社 → C社 → B社
A社がC社の株式を100%保有し,C社がB社の株式を100%保有している場合において,
A社はB社の最終完全親会社ですので,A社の株主EはB社の取締役等の責任を追及す
る訴えを提起できます。
② 被告側の条件
次に,子会社の取締役等に対して訴えを提起するためには,当該子会社(B社)が,最終完全親会社(A社)にとって「重要な子会社」でなければなりません。「重要な子会社」といえるためには,子会社の取締役等の責任の原因となった事実が生じた日において,最終完全親会社等及びその完全子会社等における当該子会社の株式の帳簿価額が,当該最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超えている(つまり,B社の取締役が任務懈怠行為をした日に,全てのB社株式の帳簿価額の合計がA社の総資産額の20%を超えている)ことが必要です(改正法847条の3第4項)。
もっとも,①②の要件を満たしていても,濫訴防止のため,不当な目的に基づく場合や,子会社(B社)に損害が生じていない場合は訴えを提起することができません(改正会社法847条の3第1項各号)。
以上のように,適用場面は限定されますが,これまで親会社株主から直接責任追及がなされることがなかった子会社の取締役等に対して責任追及を可能とする制度が新設された意義は大きいと考えられます。自社グループにおいて,多重代表訴訟の対象となる子会社が存在するかを確認しておく必要があります。